英語を母国語、あるいは第二言語として話す人が世界に約13.5億人いる英語は、「世界で最も通用する言語」です。
しかし、一口に英語と言っても、国や地域によって発音や綴り、表現などに違いがあります。
アイルランド英語・オーストラリア英語・シンガポール英語(シングリッシュ)など、英語には様々な種類がありますが、今回は、話者の数が多く、日本人に馴染み深い「アメリカ英語」と、本家本元である「イギリス英語」について解説します。
アメリカ英語とイギリス英語の違いだけでなく、それぞれの英語の学習がどういう人に向いているのかについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
アメリカ英語とイギリス英語の主な違い
英語というのは、読んで字の如く英国(イギリス)の言語です。
では、なぜアメリカで英語が使われているのかというと、建国初期のアメリカには、イギリスにルーツがある人が多かったからです。
ヨーロッパの様々な国から集まった移民たちが、「アメリカ人」としてのアイデンティティを確立していく過程で、英語も独自に変化していきました。
そんな歴史を持つアメリカ英語が、オリジナルであるイギリス英語と、主にどのような点で異なるのかについて、まずは解説します。
発音が違う
アメリカ英語とイギリス英語の一つ目の違いは、「発音の違い」です。
大雑把に言うと、アメリカ英語は綴り通りの発音をしない傾向があり、逆にイギリス英語は、比較的綴り通りの発音をします。
このような違いが生まれる理由は、アメリカ英語では「リダクション」と「フラッピング」が起こりやすく、イギリス英語では起こりにくいからです。
「リダクション」とは、たとえば「Let me think (考えさせて)」などと言う時の「let me」の発音が、「レット・ミー」ではなく「レッミー」になるような、音声が脱落する現象のことです。
また、「フラッピング」は、「T」が母音に挟まれている時などに、「T」の音が「ラ行」や「ダ行」の音に変化する現象のことで、たとえばアメリカ英語で「water」を「ウォーター」ではなく、「ウォーラー」や「ウォーダー」のように発音するのはこのためです。
綴り通りの発音か否か、の他にも、アメリカ英語では「R」の音をはっきり発音するのに対し、イギリス英語ではほとんど発音しないなど、発音に関する細かい違いはたくさんあります。
スペルが違う
アメリカ英語とイギリス英語の二つ目の違いは、「スペルの違い」です。
「yogurt(ヨーグルト)」と「yoghurt」のように、固有名詞のスペリングが微妙に異なるだけであることもあれば、アメリカ英語だと「-er」と綴られる単語が、イギリス英語だと「-re」になる、というように、ある程度の法則性を持つこともあります。
アメリカ英語とイギリス英語でスペルが異なる単語については、後ほど、例と一緒に詳しく紹介します。
語彙・表現が違う
アメリカ英語とイギリス英語の三つ目の違いは、「使う語彙・表現の違い」です。
アメリカとイギリスでは文化が異なるため、日常的に使われる語彙・表現にも違いがあります。
単語の場合スペルが少し異なるだけですが、語彙・表現の場合はまるきり違う単語を使うので、こちらのほうが混乱を招きやすいかもしれません。
語彙・表現の違いについても、後ほど詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
アメリカ英語とイギリス英語でスペルが違う単語
イギリス英語とスペルが異なるアメリカ英語の単語の多くは、「アメリカの学問・教育の父」と呼ばれるノア・ウェブスターという人物が編纂した 「An American Dictionary of English Language」という辞書に収録されています。
アメリカ英語の標準化を目指したノア・ウェブスターは、イギリス英語のスペリングは複雑すぎると考え、いくつかの単語のスペルを単純化しました。
この辞書編纂の過程で整理された単語は、一定のルールに基づいてスペルが変更されています。
ですので、いくつかのパターンを覚えておけば、アメリカ英語とイギリス英語でスペルが異なる単語を全て知っている必要はありません。
「-or」と「-our」
アメリカ英語で「-or」と綴られる単語の多くは、イギリス英語では「-our」と綴られます。
たとえば、「color」が元になっている「colorless」や、「favor」が元になっている「favorite」などは、イギリス英語では「colourless」、「favourite」となります。
「actor」や「operator」など、「or」がつくことで「〜をする者・物」という意味になっている単語は、イギリス英語でも「-or」と綴られます(かつては「actour」、「operatour」などと綴られることもあったようです)。
アメリカ | イギリス | 主な意味 |
---|---|---|
color | colour | 色 |
favor | favour | 好意、親切 |
honor | honour | 名誉、栄誉 |
rumor | rumour | 噂 |
neighbor | neighbour | 隣人、仲間 |
behavior | behaviour | 振る舞い、 態度 |
splendor | splendour | 輝き |
「-er」と「-re」
アメリカ英語で「-er」と綴られる単語、特に、「-ber」あるいは「-ter」という綴りの単語の多くは、イギリス英語では「-re」と綴られます。
「-or」、「-our」と綴る単語の場合と似ていますが、接尾辞「er」がつき、「〜をする者・物」という意味になっている単語は、イギリス英語でも「-er」と綴られます。
また、「enter」、「number」、「chapter」などのように、古い英語では「-re」と綴られていたものが、現在のイギリスでも「-er」と綴られるようになったため、アメリカ英語とイギリス英語で同じスペルになっている単語もあります。
アメリカ | イギリス | 主な意味 |
---|---|---|
Center | centre | 中心 センター |
Meter | metre | メートル (単位) 計器 |
Liter | litre | リットル (単位) |
caliber | calibre | 口径 |
theater | theatre | 劇場 |
specter | spectre | 幽霊 |
saber | sabre | サーベル |
「-se」と「-ce」
アメリカ英語では「-se」と綴られる単語の多くが、イギリス英語では「-ce」と綴られます。
しかし、他のパターンと比べると、「-se / -ce」の綴りの違いは、少し複雑です。
たとえば、「advise / advice」という単語は、アメリカ英語・イギリス英語共通で、「アドバイスする」という動詞として使う場合は「advise(アドヴァイズ)」が、「アドバイス」という名詞として使う場合は「advice(アドヴァイス)」が使われます(発音にも違いがあります)。
また、「practise / practice」という単語の場合、イギリス英語では動詞と名詞で使い分けられていますが、アメリカ英語では「practice」のみを使い、名詞と動詞でスペルの違いはありません。
アメリカ | イギリス | 主な意味 |
---|---|---|
advise / advice |
advise / advice |
アドバイスする アドバイス |
devise / device |
devise / device |
発明する 装置 |
practice / practice |
practise / practice |
練習する 練習 |
license / license |
license / licence |
認可する 認可、免許 |
offense | offence | 違反、攻撃 |
defense | defence | ディフェンス、 防御 |
pretense | pretence | ふり、見せかけ |
「-ize」と「-ise」
「ize」あるいは「ise」は、名詞を動詞化する接尾辞です。
アメリカ英語では「ize」が、イギリス英語では「ise」が主に使われます。
接尾辞「ize / ise」で動詞化された単語に、さらに接尾辞「tion」を加えて名詞化した場合でも、スペルの違いはそのまま残ります(例:realization / realisation)。
アメリカ | イギリス | 主な意味 |
---|---|---|
globalize | globalise | グローバル化する |
realize | realise | 理解する、気付く |
recognize | recognise | 認める、認識する |
organize | organise | 組織する、催す |
apologize | apologise | 謝る |
categorize | categorise | カテゴリー分けする |
maximize | maximise | 最大化する |
「-yze」と「-yse」
「ize / ise」と似ていますが、「yze / yse」は、元となる名詞にそのままくっついて、名詞を動詞化する接尾辞ではありません。
「-yze」あるいは「-yse」という形の単語は、「lysis」で終わる名詞が動詞化したものです。
したがって、「paralyze / paralyse」という単語の名詞形は「paral」ではなく、「paralysis」となります。
ちなみに、「lysis」は古代ギリシア語由来の接尾辞で、「分解する」という意味を持つそうです。
アメリカ | イギリス | 主な意味 |
---|---|---|
paralyze | paralyse | 麻痺させる |
analyze | analyse | 分析する |
dialyze | dialyse | 透析する |
pyrolyze | pyrolyse | 熱分解する |
electrolyze | electrolyse | 電解する |
photolyze | photolyse | 光分解する |
hydrolyze | hydrolyse | 加水分解する |
「-og」と「-ogue」
「catalog」や「analog」など、アメリカ英語で「-og」と綴られる単語の多くが、イギリス英語では、「catalogue」、「analogue」などと、「-ogue」という形で綴られます。
ただし、アメリカ英語で「catalogue」が使われることもありますし、アメリカでも「dialogue」は「dialog」よりも一般的です。
また、「demagogue」などの一部の単語については、「demagog」などのアメリカ式のスペリングが一応は存在するものの、ほとんど使われることはありません。
アメリカ | イギリス | 主な意味 |
---|---|---|
catalog, catalogue |
catalogue | カタログ |
analog, analogue |
analogue | アナログ |
dialog, dialogue |
dialogue | 会談 |
monolog, monologue |
monologue | 独白、 一人芝居 |
demagogue | demagogue | 扇動者 |
pedagogue | pedagogue | 教育者 |
synagogue | synagogue | ユダヤ教会 |
「-l-」と「-ll-」
イギリス英語では、「l」で終わり「l」の前に母音を持つ単語(例:model, cancel)が語形変化する際、「l」を重ねた後に接尾辞を加えます。
「l」の前に母音が二つある場合でも、一つ目の母音が子音として機能している場合や、それぞれの母音が含まれる音節が異なる場合(例:fu•el)は、同様に「l」を重ねます。
なお、「cancelled」などの一部の語形変化は、アメリカ英語でも「ll」になります。
アメリカ | イギリス | 元の単語 主な意味 |
---|---|---|
modeling | modelling | model (作る、かたどる) |
canceled, cancelled |
cancelled | cencel (取り消す) |
cruelest | cruellest | cruel (残酷な) |
traveler | traveller | travel (旅行する) |
counselor | counsellor | counsel (助言する) |
equaling | equalling | equal (等しい、劣らない) |
fueling | fuelling | fuel (燃料を供給する) |
その他の違い
今回取り上げたもの以外にも、アメリカ英語とイギリス英語でスペルが異なる単語はたくさんあります。
アメリカ英語とイギリス英語でスペルが異なる単語の中でも、上述のパターンに当てはまらず、かつ使われる頻度が比較的高いものを、いくつか紹介します。
アメリカ | イギリス | 主な意味 |
---|---|---|
check | cheque | 小切手 |
gray, grey | grey | グレー、鼠色 |
gram | gram, gramme | グラム(単位) |
story | storey | 階、階層 |
tire | tyre | タイヤ |
doughnut, donut |
doughnut | ドーナツ |
pajama(s) | pyjama(s) | パジャマ |
アメリカ英語とイギリス英語で異なる語彙・表現
アメリカ英語とイギリス英語では、同じ物を違う単語で表すことがあります。
たとえば、アメリカでは消しゴムのことを「eraser」と言いますが、イギリスでは「rubber」と言います。
語彙や表現そのものの違いは、発音やスペルの違いよりもわかりやすいので、アメリカ英語とイギリス英語で異なる語彙や表現を使っていると、「アメリカ英語(イギリス英語)を意識して話している感」が強く出ます。
どちらかの英語に憧れがある人や、留学先・赴任先がアメリカ英語圏、あるいはイギリス英語圏に決まっていて、現地の人に好印象を与えたいと考えている人などは、それぞれの英語で使われる語彙や表現を覚えておくと良いでしょう。
アメリカ英語とイギリス英語で異なる語彙20選
アメリカ | イギリス | 主な意味 |
---|---|---|
apartment | flat | アパート、 マンション |
cookie | biscuit | クッキー |
counterclockwise | anti-clockwise | 反時計回りの(に) |
autumn, fall | autumn | 秋 |
parking lot | car park | 駐車場 |
drugstore, pharmacy |
chemist’s shop | 薬局 |
cart | trolley | カート、 手押し車 |
taxi, taxi cab, cab |
taxi | タクシー |
trunk | boot | (自動車の) トランク |
fries, French fries |
chips | フライドポテト |
potato chips | potato crisps, crisps |
ポテトチップス |
driver’s license | driving licence | 運転免許証 |
can | tin | 缶 |
vacation | holiday | 休暇 |
eraser | rubber | 消しゴム |
elevator | lift | エレベーター |
pants | trousers | ズボン |
underpants, drawers |
pants | パンツ |
post | 郵便 | |
candy | sweets | 飴 |
アメリカ英語とイギリス英語で異なる表現
挨拶
「How are you?」や「How arε you doing?」は、日本でもよく知られている英語の挨拶ですが、イギリスでは「Are you alright (all right)?」「You alright?」「Alright?」などが挨拶としてよく使われます(ただし「How are you?」が使われないわけではありません)。
「Alright?」と言われた時は、「大丈夫ですか?」と心配されているわけではなく、単に挨拶をされているだけなので、「Good. You alright?」などと返すと良いでしょう。
現在完了形
現在完了形とは、「have + 過去分詞」の形になっているもので、日本語では、「継続・経験・完了」の三つの用法で訳されます。
イギリス英語では、この「現在完了形」をよく使いますが、アメリカ英語では、「経験」について話す時以外は、あまり「現在完了形」を使いません。
たとえば、「財布を失くした」ことを言う時、アメリカ英語では「I lost my wallet」と言いますが、イギリス英語では「I’ve lost my wallet」と言います。
イギリス人は、「財布を失くした(そして、まだ見つかっていない)」という「継続」のニュアンスを持たせるために現在完了形を使います。
ですが、これはアメリカ人からすると、「財布を失くしたことがある」という「経験」を語られているようで、違和感があるそうです。
前置詞
前置詞とは、「in」や「at」のように、名詞の前に置くことで、文の意味を補う役割を持つ言葉のことですが、アメリカ英語とイギリス英語で、用いる前置詞が違うことがあります。
たとえば、「週末に」と言う時、アメリカ英語では「on the weekend」と言うことが多いですが、イギリス英語では「at the weekend」のほうが好まれます。
他にも、「長年、しばらく」(「in years」がアメリカ英語、「for years」がイギリス英語)や、「道で」(「on the street」がアメリカ英語、「in the street」がイギリス英語)などの表現を見るとわかりますが、「in」と「on」の使い方にも違いがあります。
アメリカ英語とイギリス英語、どっちを学ぶべき?
ここまで、アメリカ英語とイギリス英語の違いについて解説してきましたが、では、どちらの英語を学ぶのが良いのでしょうか。
結論から言うと、アメリカ英語とイギリス英語のどちらを学んだほうがいいかは、「英語を学ぶ目的」や、「なにを重視するか」によって変わります。
アメリカ英語がイギリスで、あるいはイギリス英語がアメリカで、まったく通じないというわけではありませんので、これから紹介する判断基準を参考にして学ぶ英語を決めてください。
留学・就職したい国で選ぶ
一番シンプルなのは、留学、あるいは就職したい国によって、学ぶ英語を決めることです。
アメリカやイギリス以外の国であっても、独特な表現や訛りはあるものの、カナダならアメリカ英語、オーストラリアならイギリス英語といったように一応は主流の英語が決まっています。
日本の英語教育を生かしたいなら、アメリカ英語
ここまでアメリカ英語とイギリス英語の違いを見てきて、気がついた人がいるかもしれませんが、日本人が学校や英会話教室で学んでいるのは、基本的にはアメリカ英語です。
日本の英語教育を受けただけで英語が話せるようになるわけではないものの、学んできた単語の綴りや発音が、英語学習の礎となっていることは間違いありませんので、これまでに学習してきたことを最大限活かしたいと考える人は、アメリカ英語を学んだほうが良いでしょう。
基本や伝統、格式を重視するなら、イギリス英語
英語という言語に対して、伝統や格式など、コミュニケーションツール以上のもの・ことを見出したいのであれば、「本家本元」であるイギリス英語を学ぶのが良いでしょう。
また、「本家本元の英語」であることに加えて、言い回しや発音が丁寧なイギリス英語は、国際的な場での使用にも向いています。
国際機関で働きたい人や、色々な国へ行ってみたいと考えている人には、イギリス英語の学習がおすすめです。
まとめ
アメリカ英語とイギリス英語は、同じ「英語」であることに変わりはありませんが、「些細な違い」と片付けられないほど、発音や綴り、語彙・表現など、様々な面で異なります。
アメリカ英語とイギリス英語のどちらを学べば良いか迷った時は、
- 自分が英語を学ぶ目的
- どのような英語を扱えるようになりたいのか
などをじっくり考えて、学ぶ英語を決めるのが良いでしょう。